Nokturnal Mortum(ノクターナル・モルトゥム)
ウクライナのブラックメタル界でNo.1の人気を誇るバンド、Nokturnal Mortum。『東欧ブラックメタルガイドブック2』の表紙を飾ってくれたバンドでもあり、90年代初頭から今なおずっと活動を続けているバンドだ。
バンドの始まりは1991年。ロシアの国境にほど近いウクライナ東北部の街ハルキウで、Suppurationというデスメタルバンドが誕生した。現在バンドのフロントマンとなっているKnjaz Varggothを中心に、後にNokturnal Mortumでも活動するメンバーで結成された。1993年に、所属レーベルの倒産によりバンドはいったん解散。同年に、Crystaline Darknessというバンド名でブラックメタルを演奏するようになる。メンバーはVarggoth、彼とともにSuppurationに在籍していたMunruthel、後にNokturnal mortumでもギタリストを務めるKarpathの3人だった。
1994年、同名のバンドが存在することを知り、Nocturnal Mortumに改名。そして、二度と他のバンドとの名前が被らないようにするために、”Nocturnal”の”c”を”k”に替え、Nokturnal Mortumという現在の名前に落ち着く。当時のメンバーは、Varggoth(Vo, Gt, Key,etc…)を筆頭に、Suppurationでともに活動していたWortherax(Gt)、Xaarquath(Ba)、Munruthel(Dr)、Sataroth(Key)の5人。
デモやEP、スプリットなどを出した後、1997年に1stフルアルバムとなる『Goat Horns』をリリース。オリジナルはカセットテープで出された。現在はポーランドで議員として活動する人物が運営していたレーベルMorbid Noizz Productionsからのリリースだった(余談だが、この議員の所属する政党は、ポーランドの右派与党PiS。この政党の議員は、ポーランド国内でのブラックメタルのライブの開催に反対しており、実際にジェシュフという街でMardukの公演が不可解な理由で中止に追い込まれたこともある)。
その後も、ロシア人とアメリカ人が運営するアメリカのレーベルThe End Recordsと契約し、初期のデモ、1st~3rdアルバムをCDで再発している。ロシア語およびウクライナ語歌詞で収録された4thアルバムを、英語歌詞に直して収録された5th『Weltanschauung』は、ネオナチ疑惑もかけられているドイツのNo Colours Recordsからリリースされた。2009年には、6th『Голос сталі(The Voice of Steel)』、2017年には8年ぶりのフルアルバム『Істина(Verity)』をリリースしている。
初期のNokturnal Mortumはローファイな音質で、キーボードのサウンドが特徴的な、シンフォニックな香りのブラックメタルを演奏していた。ペイガン・フォークらしい民族楽器の使用も特徴的だ。活動歴を重ねるごとに音質はクリアになり、サウンドがより洗練され、アンダーグラウンドな雰囲気は抜けたが、メロディアスで美しくフォーキッシュなメロディーは、ブラックメタルファン以外の層にも響くクオリティだ。
2019年現在のメンバーは、唯一のオリジナルメンバーとなったVarggothに加え、Khorsなどでも活動するJurgis(Gt, backing Vo)、Rutnar(Ba)、Bairoth(Dr)、Surm(Key, Dulcimer, Pipes)である。数々の民族楽器を操るSurmは、メタル以外のジャンルでも大いに活躍している楽器奏者。ライブでは、ブラックメタルらしい衣装とコープスペイントに身を包み、ダルシマーとキーボードを器用に演奏する姿を見ることができる。
Varggothは、ポーランドのRACバンドHonorのギタリストOlafと組んで、WarheadというNSBMバンドをやっていた。また、2002年にAryan TerrorismというNSBMバンドに在籍。ネオナチ疑惑がかかっても全くおかしくはないのだが、2014年にバンドの公式Facebookページに「政治的主張からは距離を置く」という旨が投稿がされた。しかし、数年前からウクライナのキエフで開催されているAsgardsrei festivalというNSBMフェスに2016年と2018年に出演もしたりと、依然としてNS界隈と関係があることをうかがわせる。
なお、バンド名の読み方は人によって様々ではあるが、日本では「ノクターナル・モルトゥム」「ノクターナル・モータム」という読み方が主流。現地では「ノクトゥルナル・モルトゥム」と発音すると通じやすい。
SAYUKIお気に入り曲
★Україна(Ukraine)(Голос сталі(The Voice of Steel)/2009)
6thアルバムに収録されている「ウクライナ」。結成から15年の時を経て、ついに母国名が曲名に冠されたわけだが、疾走感溢れる小気味良いテンポで、サビはまるでアニメの主題歌でもおかしくないくらいの躍動感のあるキラキラしたメロディー。ウクライナ語歌詞が分からなくても、思わず口ずさみたくなる。案の定ウクライナで行われる彼らのライブでは、サビで観客が合唱している様子を観ることができる。