【Behrosth】1stデモはレコーディングすること自体かなり大変だったんだよ。俺のコンピューターが警察に没収されちゃったから。

ロシア南部に位置する都市、バルナウル。カザフスタンやモンゴルなどにも近く、夏と冬の気温差が激しいシベリア地域である。その都市で、Behrosthという若手バンドが活動している。彼らの音楽は個性的だ。ブラックメタルのイメージとはおよそかけ離れたカラフルなアートワークに、レトロなサイケデリック・ロックテイストのサウンド、そこに乗るシャウトボーカル……そう、Behrosthは、サイケデリック・ブラックメタルという、一風変わったジャンルを演奏するバンドなのである。今回は、バンドの創設者Mothにインタビューを決行した。

インタビューに応じていただきありがとうございます。まず最初に日本の読者に、Behrosthのバイオグラフィを簡単に紹介していただけますか?

Moth(以下M):このプロジェクトは、2016年にシベリアの小さな街ルプツォフスクで結成されたんだ。メンバーは、俺(リードギター、ベース)、もう一人のギタリスト(ステージネームはStillborn)、今は亡きドラマー(オーバードーズで亡くなってしまった)、そして精神障害を患っていたために一緒に活動するのが難しくなったボーカリストだった。Behrosthを結成した時、俺たちは全員16歳で、まだ学校に通っていたんだ。しかし、2016年の春、法律的な問題が生じた。というのも、俺たちは穏やかな生徒じゃなかったからね。プロジェクトのメンバーたちも取り調べを受ける羽目になってしまったんだ。1stデモ『Through the Dark』はレコーディングすること自体かなり大変だったんだよ。俺のコンピューターが警察に没収されちゃったから。だから知人の助けを借りてレコーディングした。とはいえ、2016年はたくさんの音源をリリースしたね。2017年は俺一人で活動するようになり、別に自分で気に入っているわけでもなければ、注目されもしない音源をいくつかリリースした。その後、2020年までプロジェクトは休止状態だったんだ。この時期にバルナウルに越してそこに住むようになった。その時はBehrosthのことも忘れてたよ。大学在学中に、現在のドラマーSkarsと出会った。面白いことに、プロジェクトのメンバーはいつもなぜか同い年なんだよな、笑えるよ。約1年、俺と一緒に何らかの音楽プロジェクトをやろうと彼を説得し続けて、2020年の春にようやく同意してくれたんだ。そして、リリース、俺たちの冒険の海(いずれにしても俺たちはめちゃくちゃ面白い人生を送って来た(笑))、そして作品へと繋がるわけさ。

取り調べですか!一体どんなやんちゃなことをしていたんですか?

M:学校に通っていた頃、詳細は省くけど、俺たちは政治活動を行っていたんだ。ある時、地元の治安当局の目に留まって、取り調べを受けることになった。刑務所行きのリスクもあったが、最終的に俺を含めたグループ内の2人が一年間の執行猶予判決を受けたんだよ。

ちなみに、大学では何を勉強していたんですか?

M:Skarsは大学ではなくて、デザイナーとして建築学校で勉強をした。俺は大学で歴史学を専攻していたよ。今年卒業したんだ。

それでは、音楽の話に入りましょう。Behrosthの音楽は、レトロでサイケデリックなロック音楽とブラックメタルを融合させたユニークなサウンドが魅力的ですね。このスタイルのブラックメタルを演奏しようと思ったきっかけは何なのでしょう?2020年7月にリリースされた1stアルバム『BehrosthBehrosth』は、まだあまりサイケデリックな音ではなく、ドゥーム感が強いですよね。

M:そう、確かに『BehrosthBehrosth』にサイケデリック・ロック感はないね。このアルバムには2016~2017年に制作された未発表曲が主に収録されているんだ。それだけ。サイケデリック・ロックとブラックメタルを組み合わせようと思った理由にはいくつかの要因がある。まず、俺は昔からレトロな音楽をよく聴いていた。例えば、Black SabbathやThe Yardbirdsなんかをね。従来のMayhemやDarkthroneよりも、こういうバンドを聴いていたよ。だけど、ルプツォフスクに住んでいた頃、まだ俺たちはブラックメタルを演奏していた。俺の友達はみんなブラックメタルだけを聴いていたから、他のジャンルは演奏しなかったんだ。2020年の2月、Skarsと俺でプロジェクトを復活させようと決めた時、前作からの繋がりを意識しつつ、本当に面白いことをやろうと考えた。そこで、サイケデリック音楽と初期のヘヴィメタル、ドゥームなんかをブラックメタルとミックスさせたら面白いことになると思ったんだ。他人にとっても自分にとっても。幸いにも、俺たちの音楽的嗜好はかなり近い。これは音楽活動をするグループにとってはかなり重要なことだよ。次に、2020年の同時期辺りに、サイケデリック音楽の新しい波が俺たちの元にも届いた。他の国ではどうだか知らないけど、最近俺たちの国では人気が出てきているんだ。

あなたがたが影響を受けたアーティストはいますか?やはりBlack Magick SSの影響もあるのでしょうか。

M:俺たちに影響を与えたアーティストについて、特別に名前を挙げるなら、The Sizlacks、Rory Gallagher、Blue Cheer、Jefferson Airplane、Black Sabbath、The Seeds、Deep Purple等々。影響を受けたアーティストを全て挙げるにはかなりの時間を要するね。みんなが信じているのとは逆に、俺たちはBlack Magick SSはほとんど聴いたことがない。俺たち2人ともサイケデリック音楽を大量に聴いているけど。でも、Black Magick SSは、俺たちが信じているブラック系の音楽の新たな世界の出発点を示してくれた。その点で彼らを評価しているんだ。彼らの作品のうちの数曲は、俺も記憶の中にある。彼らの影響は、方法論的なもので、彼らのサウンドをコピーしようとしたことはないよ。俺たちにとっては、自分たちで新しい何かを見つけて、創り出すことの方が楽しいから。

Behrosthの曲の主なテーマは何なのでしょうか?アルバムごとのコンセプトも教えていただけたら嬉しいです。

M:曲の主なテーマは、俺たちの旅の感覚を綴ったものがほとんどだ。そんなに多くはないけど、歴史や中世ロシアの文学作品などについても触れることがある。例えば、『Оазис(The Oasis)』に収録されている「В тринадцатый год(In the thirteenth year)」は、ティムール軍の侵攻からモスクワが奇跡的に救われたことを物語る『Temir Aksak伝説』を独創的に再構築したものなんだ。俺たちの作品には、こういう曲がたくさんある。そして、たいていの場合、全て秘密のベールに包まれている。直接的に言及しないようにしているんだ。アルバムには、俺たちの内なる統一感を除くと、厳密なコンセプトがあるわけではない。これに大きな意味があるわけじゃないけど。

変わったバンド名ですが、Behrosthの由来は何なのでしょうか?

M:このプロジェクト名に言語的な意味はないんだよ。暗号化された座標であって、いつか誰かが解読するかもしれないね(笑)

アートワークもカラフルで個性的ですが、どなたが担当されているのでしょうか?

M:カバー、アートワーク、レコードやカセット、CD全てのデザインはSkarsが担当している。これは、彼の人生における長年の現実逃避の中で培われた彼独自のスタイルなんだよ。彼はドラマーでもありアーティストでもある。グループの中でもこうして掛け持ちをしているんだ。

最近、1977年にリリースされた”It’s a Long Way to Mukumbura”という、現在のジンバブエ共和国の村で、かつてローデシア紛争の舞台ともなったマッカムベラに関する曲もカバーしていますね。なぜこの曲をカバーしようと思ったのでしょうか?

M:”It’s a Long Way to Mukumbura”のカバーは、俺の提案でレコーディングしたんだ。『ワイルド・ギース』(1978)という映画を観て以来、20世紀後半に起きたアフリカでの紛争の話題が頭から離れなくなった。たいてい、ローデシア紛争のことがアートで取り上げられることはめったにないし、人々がこの出来事について振り返るのもいいんじゃないかと思って。

映画から音楽制作のインスパイアを受けることもあるのでしょうか?特別お気に入りの映画はありますか?ソ連時代のものも含め、自国の作品でオススメの映画はありますか?

M:俺の場合、音楽からインスピレーションを受けることが多い。でも、Skarsは様々な映画をしょっちゅう観ているよ。最近は、『ロード・オブ・ザ・リング』の三部作にめちゃくちゃハマっているみたいだ。彼は『ヘル・レイザー』のような古い映画も大好きなんだよ。あと、俺たちは2人とも『サーズデイ』(1998)が大のお気に入り。Skarsは『アシッドハウス』(1998)のような映画も好きで、子どもの頃にはスリラー映画の『アイデンティティー』(2003)を観て気が狂いそうになったらしい。現代のロシア映画は、ごく一部の例外を除いて、完全にクソな作品ばっかりだね。ソ連の映画は面白いよ。まぁ、退屈な物も多いんだけど。ソ連の映画でオススメを挙げるなら、『犬の心臓』(1988)かな。俺のお気に入りのひとつだよ。

2020年以降、ハイペースでフルアルバムをリリースされていますが、どのような環境でバンド活動をされているのでしょうか?メンバー同士頻繁に会って、一緒に音源を制作したりバンド練習をしているのでしょうか?

M:グループでの作業工程について言うと、俺たちは今のところたった2人で活動しているから、何をするにも簡単なんだ。俺たちは何日も一緒に過ごすこともある親友なんだよ。一緒にいる時は、ほぼいつも何かしらに共同で取り組んでいる。彼もかなり根気強いおかげで、16~18時間作業をしていても疲れを感じない。音楽制作は、俺たちに大きな喜びを与えてくれるしね。たいてい、一週間に数回は会っているよ。

ここ最近はすっかりサイケデリック色が強いですが、今後違うスタイルの音楽を演奏する予定はありますか?また、他に演奏してみたいジャンルなどがあれば教えてください。

M:まだ音楽性を変える予定はない。だけど、実験的なことがやりたかったり、Behrosthのスタイルとは違う音楽が演奏したくなった時のために、俺たちはClactonian Hazeというサイド・プロジェクトもやっているんだ。そっちでは、ダークジャズとデスメタル作品をリリースする予定だよ。とはいえ、時にはBehrosthの代わりに、過去へのトリビュート的なロウ・ブラックメタルをやりたい気持ちもあるけどね。それがいつ実現するかは断言できないかな。

レーベルはロシアのBarbatos Productionsに所属されているようですが、このレーベルはNS系の作品も多くリリースしています。あなたたちの音楽はNS系の思想を露骨に帯びているように感じませんが、実はそうした思想も含んでいるのでしょうか?

M:君のその情報はちょっと古いよ。Barbatos Productionと本格的な契約を交わしたことは一度もない。フィジカルで音源をリリースするための単発契約しかしたことないよ。俺たちの最初の、そして唯一の契約はGoatowarexだけ。この契約は今も有効で、最近はここのレーベルから音源をリリースしている。俺たちの音楽は政治的要素を含んでいないんだ。音楽やその他の芸術作品を、政治的堕落の対象にするのは価値の無いことだと考えている。芸術は、感情、記憶、歴史に関するもの。ほとんどの政治団体は、新聞の見出しを集約したようなもので、創造性がない。とはいえ、俺たちが何も政治的な考えを持っていないというわけでも、いつも政治に反対しているというわけでもないよ。いずれにしろ、Behrosthの任務は、時間と政治紛争から抜け出すことだ。

あなたたちは現在バルナウルという都市で活動されていますが、バルナウルはどのような街なのでしょうか?シベリアなのできっとかなり寒い地域だと思いますが、そうした気候などが音楽に与える影響は感じますか?また、同じ都市に交流のあるバンドはいますか?

M:俺たちの街について、南極大陸か何かのように考えることはないよ。厳しい大陸性気候で、一年の半分は死ぬほど暑くて、残り半分は死ぬほど寒い。この気候が俺たちの音楽にどういった影響を与えているかは分からないから、それに答えるのは難しいな。他のミュージシャンとの交流も確かにあるけど、彼らはまだ公には活動していないんだ。彼らが公の場に登場したらぜひ紹介しようと思うよ。

あなたの出身地ルプツォフスクはどのような街なのでしょうか?その街にもメタルのシーンはあるのでしょうか?

M:ルプツォフスクは、死んだように老朽化した工場、放棄された軍隊、世界最悪の道路がある普通の小さなシベリアの僻地だ。この街のメタルシーンについて言うならば、この街には何もない。ステージもなければコンサートもない、何もないんだ。

ロシアのメタルシーンについてはどう思いますか?ロシアは音楽活動がしやすい国だと思いますか?

M:ロシアのメタルシーンについてはあまり語れないな。もちろんたくさんクールなバンドがいるんだけど、あえて言うなら、最近ライブに参加したGrimaかな。ロシアで音楽制作をするのは簡単かって?簡単だと思うよ。ただ、それを職業にするのはかなり難しい。ロシアでは、ロックやメタルで収入を得るのは事実上困難で、自由に創造性を発揮できる人はほんの一握りだよ。多くのミュージシャンは結局、音楽制作を諦めて他の道に進んでしまうんだ。お金もエネルギーも時間もないから。残念なことに、ロシアではポップス業界だけが「発展」していて、お偉いさんの子どもとか、実業家みたいな人しか活躍していない。正直言って、ポップス業界の質は最悪なもんだよ。それ以外の音楽は、普通の人たちによって発表され、永遠に無名のままで終わる。悲しいことだね。

あなたがた個人についても少し教えてください。どのようにメタルを聴くようになったのでしょうか?

M:俺はごく子どもの頃にヘヴィな音楽を聴くようになった。俺の家族はめちゃくちゃ貧しくて、母親はいつも働いていたし、家での唯一の楽しみはテレビとビデオデッキだった。Led Zeppelinが1969年3月17日にグラズサックセで行ったコンサートを録音したカセットもあったよ。これが全ての始まりだった。Skarsに関して言うと、彼は俺の地元より大きくて発展したバルナウルで生まれ育ったから、思春期の頃から不良仲間との付き合いがあったんだ。それで彼は音楽が大好きになったんだよ。ちなみに、彼は俺よりもたくさんメタルを聴いている。特に、スラミング・ブルータル・デスメタルや、ロウ・ブラックメタルのファンで、メタル系のマーチを集めるのも好きなんだ。

メタル以外に聴く音楽はありますか?おそらく、サイケデリック・ロックにお詳しいと思いますが、オススメのアーティストはいますか?

M:さっきも言った通り、俺はメタルはあんまり聴かないんだ。だからたくさんのバンドを挙げることができるよ。Sacred Mushrooms、Hey Colossus、Crocodile Crocodile、幾何学模様、Mountain Witch、Supernatural Buffalo、KYUSS、そしてもちろんTame Impalaもお気に入りのひとつだ。 Skarsのオススメは、Motörhead、Wagner Ödegård、Satanic Warmaster、Kunteynir、Orodruin、Night In Gales、Nihil Invocation、Naam、Satánico Pandemonium、Dungeon Steel、Kommodus、Mortiferumだ。

日本の音楽も聴くんですね。他にもどんなバンドを聴きますか?

M:もちろん、俺は日本の音楽も聴くよ。しかもたくさんね。ここでは、誰もが知っているようなX JAPANや和楽器バンドの話をするのはやめておこう。すぐに頭に思い浮かぶのは裸のラリーズだね。他にも、KERA(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)、クールなドローンプロジェクトKiku、YBO²、ゆらゆら帝国、サディスティックス、筋肉少女帯、林英哲、envy、灰野敬二、ZENI GEVA、そしてBoris!

Kikuというのはプロジェクト名ですか?調べてもなかなかそれらしい情報が出てこないんですけど……日本のこうしたアーティストの情報はどのように集めているのでしょうか?

そう、Kikuはプロジェクト名。とても面白い音楽なんだ。(https://sarquisdemado.bandcamp.com/album/hora-kokoni)日本の音楽は、セレクションで知ることが多いよ。非スタンダード、インディーズの音楽なら、高確率でそこに日本の演奏者が含まれている。日本の音楽コミュニティをさらに深く掘り下げて、ダイアモンドの原石を見つけるには、残念ながら日本語が分からないとダメだね。

あなたのお住まいの地域でのコロナウイルスの状況はどうですか?あなた自身、コロナ発生前と後で何か変わったことはありますか?

M:コロナウイルスに関して言うと、生活はあまり変わっていない。ただ、みんながマスクを着け始め、マスクをしてスーパーのレジに向かうようになっただけ。マスクをせずに街中を歩くと、警察官に罰金を取られることもある。まぁ、ごく稀だけどね。それだけだよ。俺はコロナウイルスに2回感染したけど、もう平常運行さ。個人的には、文字通りドアノブを舌で舐めることだってできるくらいに、俺はもうコロナウイルスは気にしていない。とはいえ、コロナウイルスで亡くなった人がいるということも知っている。ただ、俺はまだ22歳だし、味や匂いを感じられなくなった時だけコロナウイルスを憎んだよ。

最後に日本のメタルファンに一言お願いします。

M:日本には常に俺を魅了する非常に多彩なシーンがある、と日本のメタルファンに言いたいよ。ただただ尊敬する。音楽的な伝統もとても豊かだ。みんながグループを組んで、創作活動をしてくれたらいいなと思う。結局のところ、ロックやメタルは芸術家のための本質的な芸術なんだよ。いつか、日本のミュージシャンが「Behrosthを聴いている」と言ってくれたらとても嬉しい。それと、みんなの健康と心の平安を祈っている。もし君が俺たちの音楽を好きなら、俺たちはすでに君のことを愛しているよ。

 

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【CD】Behrosth “Bѣдьминъ часъ”

 

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