【Ieschure】なぜオカルトに惹かれるのか、自分でも正確には分からない。ただ、自分には必要なものだと思うの。
ウクライナの北西に位置する都市リウネに、Ieschureというブラックメタルのソロ・プロジェクトが存在する。そのプロジェクトで活動するのはLilita Arndtという女性だ。彼女の作る音楽は独特である。ブラックメタルのメランコリックな闇深さと、女性ならではのミステリアスなボーカルが見事に融合し、オカルティックで神秘的な世界を創りあげている。今回はそんな彼女にインタビューを決行した。
Sayuki(以下S):インタビューに応じていただきありがとうございます。まず最初に日本の読者に、Ieschureのバイオグラフィを簡単に紹介していただけますか?
Lilita Arndt(以下L):Ieschureは、ブラックメタル、死、オカルティズム、闇に捧げられた、ウクライナ発の女性のワンマン・プロジェクトよ。
S:Ieschureというプロジェクト名の由来は何なのでしょうか?また、この名前を選んだ理由も教えていただけますか?
L:”Ieschure”の意味は秘密にしておきたい。この名前にはオカルト的な意味がこめられているんだけど、それはわたしにだけ重要なものなの。炎の概念と関連があるんだけど。わたしの音楽性とうまく調和すると思ってこの名前を選んだわ。
S:あなたの作る音楽は、メランコリックで神秘的、かつオカルティックな独特のサウンドですよね。音楽を作る際に大切にしている世界観があれば教えてください。
L:そうね。わたしの音楽はわたしの一部であって、わたしの感情、アイディア、人生や世界に対する考え方などを体現しているの。わたしは、自分が作るものにはずっと誠実でいるのよ。自分の好きな音楽だけを作っているし、自分の感情を反映したコンセプトだけを曲に使っている。レコーディング、歌詞、カバーアートにもかなり気を遣っているのよ。
S:どのようにオカルティズムに目覚めたのでしょうか?また、オカルティズムの何があなたを惹き付けるのでしょう?
L:オカルティズムに目覚めたのはずっと昔、子どもの頃なのよ。当時は「オカルティズム」という言葉自体知らなかったけど、何かこう「隠された」というか、言葉では言い表せない世界の本質のようなものを感じたのよね。最初、それは夢や直感を通してわたしの元に現れた。10代後半になると、タロットカードやお守りを使うようになり、オカルト関連の本を集めたり、占星術も学び始めたの。わたしはこれらと共に生きているし、これからもずっとそうだと思う。オカルティズムは、もうわたしの重要な一部だから。なぜオカルトに惹かれるのか、自分でも正確には分からない。ただ、自分には必要なものだと思うの。オカルティズムを通して、自分は何者なのか、わたしはどこへ行くべきなのか、人生で優先すべきものは何か、自分にとって役に立たない拒否すべき些末なものは何かなど、たくさんの情報を得ているのよ。
S:また、あなたの音楽には、まるでオカルト映画のワンシーンを思わせるような雰囲気もあります。実際、映画からも影響は受けているのでしょうか?
L:わたしは色々なジャンルが好きだから、特にオカルト映画のファンとは言えないわ。でも、『The Blood on Satan’s Claw(訳者注:『鮮血!!悪魔の爪』という邦題で、日本でも過去にVHSが出ている)』(1971)と『ナインスゲート』(1999)は大好き。わたしの音楽に多大なるインスピレーションを与えたモノクロ映画の名前もひとつ挙げると、ソ連の古い映画『ハムレット』(1964)ね。通常、わたしは映画より本から影響を受けることが多いの。たくさん本を読むから。あと、古い絵画や彫刻も大好き。フランシスコ・デ・ゴヤの絵とかね。彼のダークでミステリアスな傑作の数々は、わたしに真のインスピレーションを与えてくれたわ。
S:ところで、あなたの曲の歌詞は英語ですが、それには何か理由があるのでしょうか?母国語では歌う予定はないですか?
L:英語を選んだのは、わたしにとってはこの言語で歌詞を作る方がずっと簡単だから。英語の歌詞の方がメロディーによく合うのよ。ウクライナ語やロシア語より単語が短いし。これが、わたしが英語を使う主な理由ね。
S:1stアルバム『The Shadow』はドイツのIron Bonehead Productionsからリリースされています。なぜこのレーベルからリリースすることになったのでしょうか?
L:Iron Bonehead Productionは良いレーベルだからね。リリース作品はどれも良質だし、流通も良いから。
S:今年に入ってからは、ブラジルのPromethean Gateとスプリットアルバムをリリースされていますね。何がきっかけでこのバンドとスプリット作品を制作することになったのでしょうか?
L:わたしはPromethean Gateの音楽が好きだったし、彼らもわたしの音楽が好きだった。だからスプリットを作りましょうという話が出たの。
S:なぜ一人で音楽を始めるようになったのでしょうか?今後、バンド形式で活動する予定はありますか?
L:わたしがどこかのバンドの一員になることはないと思う。セッションメンバーならありだけどね。バンド形式だと、ソロ・プロジェクトにある創造性の自由が失われてしまうから。わたしが一人で演奏を始めたのは、他のメンバーからの影響を受けずに、わたしが主役になって音楽を作りたかったから。
S:楽器の演奏もすべてお一人でこなしていますが、どのように楽器の演奏を学んだのですか?独学でしょうか?
L:そう、楽器の演奏は独学。数年前に、Hohnerのシンプルなアコースティックギターを使って、音楽の演奏を独学し始めたの。その後、コルグのキーボードを買った。そして、Adobe Auditionでミキシングも行うようになったわ。これがわたしの音楽制作の第一歩。同時に、ミキシングとマスタリングも学ぶようになった。わたしの曲のほとんどは、自宅のスタジオでミキシングとマスタリングを施しているの。現時点では、『Phantoms of God』に収録されている楽曲の一部だけ、ドイツのスタジオでミキシングされたわ。このEPでは、初めてセッションドラマーを起用したのよ。
S:ブラックメタルのプロジェクトをやっていて、女性であるがゆえに恩恵を受けたことや、逆に問題が生じたことなどはありますか?
L:半々かな。女性がブラックメタルをやっているのが気に入らないという人もいれば、ブラックメタルそのものより、ブラックメタルをプレイする女性が極端に好きという人もいる。例えば、フォーク音楽とか、ブラックメタルの要素がないものにブラックメタルを見出したりする人とかみたいに。もしくは、特に天才的というわけでもないブラックメタルプロジェクトに、天才的な要素を見出しちゃったり、みたいな。今日、女性のプロジェクトやバンドはリスナーにとって、より「興味深い」と思われる機会がある一方、女性がやっているからという理由で音楽的観点から真剣に作品を受け止めてくれない人も多くいる。そのうち、人々がミュージシャンの性別ではなく、音楽そのものにもっと注目してくれるようになることを願うわ。
S:ウクライナのメタルシーンについてはどう思いますか?音楽活動がしやすい国だと思いますか?
L:自分の国のシーンについて、何か気の利いたことを言うのはちょっと難しいわね。なぜって、あんまり興味がないから。ここ数年で音楽活動の状況も変わってきていて、独自のサウンドと、音楽制作への独自のアプローチを持つソロ・プロジェクトが以前よりずっと増えた。わたし自身もそんなプロジェクトのひとつだと思う。わたしは自分の道を進んでいるし、「シーン」の一部になろうともしていない。インターネットのおかげで、ソロで活動するチャンスも得やすくなったしね。
S:ウクライナには政治的な主張を掲げるブラックメタルバンドも多いですよね。あなたも音楽を通して政治的主張をすることもありますか?
L:いや、わたしの音楽には政治的要素は一切含まれていないし、今後もそのつもり。音楽に政治的なプロパガンダを取り入れているバンドとわたしの音楽には、何の共通点もないわよ。
S:同じくリウネ出身のMolochのSergeyと交流があるのは存じ上げていますが、他にも交流のあるアーティストはいますか?
L:Sergiyはわたしの古い友人で、ロゴや写真撮影を手伝ってくれたりするの。彼とは頻繁に連絡を取っているわ。他にも時々連絡を取り合っているミュージシャンはいるけど、親しい友人とは言えないわね。
S:あなたのことについてもう少し詳しく教えてください。あなたはどのようにメタルを聴くようになったのでしょうか?
L:メタルを聴き始めたのは10代の頃ね。当時人気のあったバンドを聴いていた。そのうち、もっとアンダーグラウンドなバンドを聴くようになって、その結果、ブラックメタルに辿り着いたの。
S:あなたが影響を受けたアーティストはいますか?
L:わたしが最も影響を受けたのはBurzumだと思う。あと、第一波、第二波のブラックメタルのロウなサウンドの古いアルバム、ドゥームなどブラックメタルではないスタイルの音楽にも影響を受けたわ。
S:メタル以外に聴く音楽はありますか?
L:メタルに加えて、色んな音楽を聴くわよ。ロック、電子音楽、トランス、クラシックとか。
S:メタルに限らず、日本の音楽は聴いたことがありますか?
L:わたしが日本で知っているのはメタルバンドだけね。Sigh、Sabbat、Gallhammer、Abigail、Arkha Sva……
S:ウクライナでのコロナウイルスの状況はいかがですか?あなた自身、コロナ発生前と後で何か変わったことはありますか?
L:コロナウイルスが発生する前から、わたしはウェブデザイナーとして在宅で働いていたの。だから、わたしの生活は特に変わりないと言える。それでも、やっぱり自由が制限されているのを感じるし、それは不快で悲しいなとも思う。わたしの多くの知り合いが、この病気を経験したしね。
S:最後に日本のメタルファンに一言お願いします。
L:わたしの音楽をサポートしてくれるみんな、ありがとう!
Dekalog11でもIeschureの商品を取り扱っています。
【CD】Ieschure “The Shadow”
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